知っておきたい病気

知っておきたい病気

ここでは数多く存在する泌尿器科疾患のなかで代表的なものをいくつかピックアップし少し詳細にご紹介いたします。

堀先生

前立腺肥大症

前立腺とは男性特有の臓器で膀胱の出口のところに尿道を取り囲むようにして存在しています。前立腺は精液の液体成分(精液は精子と液体成分に分けることができます。ちなみに精子は皆様御存知の通り精巣(睾丸)で作られています。)を作るという働きを有しています。

40歳を過ぎると男性は極めて高い確率でこの前立腺が少しずつ大きくなって(=肥大して)きます。これが前立腺肥大症です。前立腺肥大症では尿道が締めつけられるような格好となりますのでおしっこが出にくい・スッキリしない・キレが悪い・排尿に時間がかかるといった排尿障害が現れることがあります。

また膀胱を下方より刺激する格好となりますので日中あるいは夜間の尿の回数が多い・尿意を感じるとおしっこを我慢するのが難しい・場合によっては失禁してしまうといった膀胱刺激症状が現れることもあります。最近では極めて頻度は低くなりましたが尿管・腎臓といった上部尿路へ悪影響を及ぼし腎不全など全身症状が発現することもあります。

前立腺肥大症に伴う症状は内服薬でコントロールできることが多いです。どうしても内服薬で症状が軽快しない場合や患者様が希望される場合は手術(尿道より行なう内視鏡手術が現在の主流です)或いは尿道ステントといって前立腺肥大症によって狭くなった尿道に金属コイルを留置する処置をお勧めすることもあります。

前立腺肥大症は良性の疾患ですが、中には癌を合併していることもあるため注意が必要です。

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前立腺癌

近年老若を問わず発生頻度が急上昇してきている癌の1つが前立腺癌です。

その原因として食事を含めたライフスタイルの欧米化・検診の普及等にて早期発見癌が増えてきていることなどを挙げることができます。天皇陛下や深作欣二さん、三波春夫さんの御病気として耳にされた方も多いのではないでしょうか。実際米国では男性における癌による死亡はこの前立腺癌によるものが最多であるといわれています。また老衰で死亡された男性を剖検してみると約90%の確率で前立腺癌が検出されたという報告も存在します。

前立腺はおおまかに述べますと「みかん」の様な構造をしていると考えていただいてよいかと思います。いわゆる「身」の部分(=内腺)と「皮」の部分(=外腺)に分けることができます。前立腺肥大症は内腺から発生し、前立腺癌は基本的に外腺から発生するといわれています。(もちろん頻度は低いですが内腺から発生する前立腺癌も存在します。)内腺から発生する前立腺肥大症は直接尿道・膀胱へ影響を及ぼすので排尿に関する症状が出現しやすいのですが、前立腺癌は先に述べましたように外腺から発生することが多いので自覚症状が比較的でにくいとされています。

前立腺癌は早期発見することが可能であります。排尿に関する症状が存在したりおしっこに血が混じる場合はもちろんのこと無症状であっても採血・超音波検査・直腸診でかなりの高い確率で診断することができます。採血のみでもある程度のあたりをつけることはできますが、採血のみではなく可能であれば超音波検査、さらに可能であれば直腸診(お尻からほんのすこしだけ指をいれ前立腺を触診するという診察です。)を行なったほうが当然のことではありますが診断の確率は格段に上昇します。当院では医学上の見地からこの3つの検査をまずはお勧めしますが、採血だけでチェックしてほしいという方や3つのうち2つだけで検査してほしいとの御要望があればもちろんそのように対応させていただいております。

これらの検査で癌の疑いが生じた場合、前立腺の組織・細胞を針で採取する検査(前立腺針生検)を行ない前立腺癌の有無につき病理組織学的に確定診断を下します。当院では前立腺針生検も麻酔(仙骨麻酔といいまして局所麻酔より強く、いわゆる半身麻酔より弱い、骨盤のあたりのみの痛みを取り除く麻酔方法です。)をし、十分除痛した上で日帰りで行なっています。

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膀胱炎

人間は様々な部分に(卑近な表現方法になりますが)体内と外界とが交通する「通路」を有しています。耳・鼻然り、また尿道も然りです。皮膚表面をはじめとして、外界には好むと好まざるといわゆる雑菌が多数存在しており、こういった「通路」から絶えず体内に侵入してこようとしています。このような外界からの雑菌侵入に対して、人間の体には様々な防御機構がそなわっています。それがいわゆる免疫システムであり、尿路に関して述べますと、免疫システム以外に尿道からの粘液分泌や尿そのものによる洗浄効果も、その防御機構として挙げることができます。

特に女性は尿道が非常に短く、外陰部の細菌が極めて容易に膀胱内に侵入してしまいます。しかし通常であれば先に述べました免疫システムや尿そのものによる洗浄効果などによって細菌は定着しないように保たれています。とは言うものの、例えば仕事が立て込んでいて非常に体が疲れている状態などでは免疫能力が低下しますし、十分に水分がとれない環境であるとか発汗が著しいような状態・また排尿を我慢する状態が続きますと尿による洗浄効果が十分に発揮されなくなってしまいます。こういった時に膀胱内に侵入した細菌が排除されることなく異常繁殖し続け、膀胱炎を発生させてしまうのです。

膀胱炎になりますと、排尿時の痛み・排尿後もスッキリしない・頻繁におしっこがしたくなる・トイレに行く割にはあまりたくさんの尿が出ないなどの症状が現れます。

膀胱炎は抗生物質の内服で比較的速やかに軽快しますが、中には細菌がさらに尿路の奥にあたる腎臓にまで到達し高熱を来す腎盂腎炎という病態になることがあります。また繰り返し膀胱炎になってしまうような方や尿の培養検査で特殊な細菌が検出されるケースなどでは他に重大な病気が隠れていることもありますので「たかが膀胱炎、されど膀胱炎」であります。症状があれば専門家の診察を受けられることを是非お勧めします。

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性行為感染症(性病)

性行為感染症(いわゆる性病)は以前より根強く存在しているのですが、この数年間で発生頻度が急激に増加しています。この範疇に含まれる病気としては「クラミジア・淋病・コンジローマ・ヘルペス・梅毒・エイズ」などをあげることができます。また肝炎ウィルスも性行為で感染することがあります。近年耐性株とよばれる、これまでに特効薬とされた治療薬に抵抗性を示す病原体が出現し、これが急速に蔓延しつつあり特に問題視されています。さらに、従来ではあまり存在しなかった咽頭や鼻腔などからもこれらの病原体が検出されるケースが増えてきており、性病に感染する機会が多くなってきていることを示唆するものと考えられます。

病気によって潜伏期や現れる症状には差があり、臨床症状と血液検査・病原体の培養検査等にて病気の診断を下します。投薬が治療の基本となりますが、配偶者など特定のパートナーがいる場合には「ピンポン感染」とよばれる相手方への感染の危険性があるので、完治に導くことが肝要となります。また状況に応じてはパートナーに対する検査・治療が必要となることもあり、まずは恥ずかしがることなく専門家の診察を受けられることを是非お勧めします。

当院では性行為感染症(性病)の診断・治療はもちろんのこと、特に症状がないものの性行為感染症の可能性を心配されているという方にも御希望に応じて検診を行っています。

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性機能障害(特にED)

性機能障害にはいわゆる勃起不全だけでなく性欲の減退・射精の障害なども含まれている意外と奥深い分野です。

泌尿器科学の中では一部の医者は熱心に取り組んでいるもののまだまだ悪性腫瘍などに比べると扱いが小さいのも事実であります。専門学会である日本性機能学会も近年発足し(これまでは性機能研究会という名称で学会の扱いではありませんでした。)性機能障害の治療に関心を持つ泌尿器科医で活発な議論がなされています。気恥ずかしさもあり、またある程度は仕方ないと諦めてしまう方が多くこれまであまり目立つことがありませんでしたが、性機能障害は誰にでも起こりうる障害で実際非常にありふれたものといえます。ここでは最近特に注目を集めている勃起不全についてお話しさせていただきます。

勃起不全(ED)とは勃起の力が弱い・勃起の持続時間が保たれないなど勃起に問題があり性交渉に支障を来す状態を指します。大別すると器質性(=糖尿病や血管障害などで陰茎や神経そのものに問題がある場合やホルモンの異常がある場合がこれに含まれます)と機能性(=陰茎や神経などの構造上の問題はない場合で、心因性とよばれる精神的な要因で発症しているものもこれに含まれます)に分類することができます。器質性の場合、ベースとなっている病気の治療が優先されます。実際には器質性より機能性勃起不全の頻度の方が圧倒的に高いのですがまずはこの見立てが重要です。

機能性及び一部の器質性勃起不全における治療の1つが内服薬による治療です。かつては漢方薬やビタミン剤、抗不安薬などが用いられていましたが、バイアグラの登場で治療効果が一変しました。従来使用していた薬剤に比べ圧倒的に有効性が高く、約8割の方に有効というデータが出されています。ただし全身状態や他の内服薬の有無によっては危険な合併症も報告されていますので専門医からの処方を受けることをお勧めします。また近年、レビトラという勃起不全に対する治療薬も登場し、内服薬による治療の幅が増しました。

バイアグラ・レビトラを含めた内服薬による治療以外には心理療法・陰茎海綿体内薬物投与・勃起補助具を用いた方法などの治療方法も存在します。当院では日本性機能学会会員としてこれまで地域の一線級の基幹病院で性機能専門外来を担当してきた豊富な経験をもとに性機能障害に関する診療もおこなっています。

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包茎(真性・仮性)

包茎とは亀頭が包皮でおおわれて露出していない状態をいいます。

男性は思春期を迎えるまでは包茎であることが一般的であります。また亀頭と包皮の間には生理的な癒着が存在することが多く、小児期では無理に包皮を反転させることが困難であるケースが大多数を占めています。しかし思春期を迎えますと成長とともに亀頭の発育が包皮の発育を上回るようになり、さらには亀頭・包皮間の生理的癒着が消失していき亀頭が自然と露出するようになってきます。

包茎は2つに大別することができます。真性包茎と仮性包茎です。真性包茎とは陰茎が勃起しても包茎の状態が続いているものであり、仮性包茎とは陰茎が勃起すると包茎が解除される(つまり亀頭が露出される)ものを指します。包茎を論ずる場合、思春期以前と思春期以後にわける必要があります。

思春期以前はほぼ前例真性包茎と申し上げて差し障りはないと考えますが、繰り返し亀頭包皮炎(細菌が侵入し陰茎が炎症を起こしている状態)となる場合や、排尿障害を来す場合、あまりにも高度な包茎である場合などでは治療の対象となることがあります。

思春期以後では、真性包茎でさらに何らかの不都合が生じている場合(包皮を反転させようとすると陰茎が痛む・性交渉に支障を来す・亀頭包皮炎を繰り返す・排尿障害があるなど)は治療の対象となります。治療は手術によって行います。思春期以降の真性包茎は現在の診療体系では保険診療が適応される病気として解釈されていますので手術は健康保険を用いた診療となります。

一方、仮性包茎は基本的にそのまま経過観察ということになります。しかしご希望があれば手術によって治療することとなりますが、現在の診療体系では保険診療が適応される病気として解釈されていませんので手術は自費による診療となります。

当院では思春期以降の包茎で治療が必要な方・ご希望のある方に対してご相談の上手術治療も行っております。

局所麻酔にて行う約1時間の手術になりますが、包茎の状態によっては治療方法が異なることもありますのでご心配であればまずは一度ご診察させていただければと存じます。

また思春期以前の小児の場合、包皮反転トレーニングや軟膏塗布といった手術以外の治療も存在しますがどういう戦略で今後フォローアップしていくのがよいかご心配であれば一度ご相談させていただければと存じます。

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尿失禁(特に成年女性)

尿失禁とは文字通り、自分の意志とは無関係に尿が漏れてしまうことです。老若男女を問わず起こりえますが、ここでは特に成年女性の尿失禁に的を絞ってお話しさせていただきます。

尿失禁を自覚している成人女性は実は非常に多く、極めてありふれた病態であるということがわかってきています。もちろん症状の重い・軽いはあり、咳やくしゃみをしたときにごく少量だけ漏れてしまうというものから体を動かすと膀胱内の尿が全て漏れてしまうといったものまで存在します。恥ずかしさもあり、またある程度は仕方ないと諦めてしまう方が多くこれまであまり目立つことはなかった病態ではありますが、近年この分野に対する注目と泌尿器科学の進歩は著しいものがあります。

女性の場合、出産もあり骨盤底筋群とよばれる骨盤の底部にある筋肉群が引き伸ばされたり傷んだりしやすいといわれています。骨盤底筋群の中にはおしっこを我慢させる尿道括約筋も含まれていますので出産を経験した女性ではとりわけ尿失禁が生じやすくなります。また子宮は膀胱に乗りかかるように存在しており、このために膀胱が下方へ押し付けられるような格好となっていますが、膀胱が下垂すると尿道・尿道括約筋機能不全を招来させるといわれています。さらに出産の有無にかかわらず靭帯とよばれる内臓を支える構造物が加齢とともに弱くなってくるために膀胱を含めた内臓が全体的に下垂し、尿道・尿道括約筋機能不全に拍車をかけることとなります。尿道・尿道括約筋機能不全が起こると尿失禁が発生してきます。

最近ではさまざまな治療の選択肢が出てきました。効率良く骨盤底筋群をきたえる体操・薬物療法・手術療法などの方法がありますが、尿失禁の程度・全身状態に応じて最適となる治療法を選択することとなります。先にも述べましたが近年尿失禁の治療方法・治療成績は飛躍的に向上してきておりますので恥ずかしがることなく専門家の診察を受けられることを是非お勧めします。

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